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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)207号 判決

東京都千代田区丸の内3丁目2番3号

原告

株式会社ニコン

代表者代表取締役

小野茂夫

訴訟代理人弁理士

岡部正夫

井上義雄

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

中村友之

幸長保次郎

伊藤三男

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成2年審判第13144号事件について、平成5年9月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年7月28日、名称を「自動焦点調節装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について、特許出願をした(特願昭56-117089号)が、平成2年5月31日に拒絶査定を受けたので、同年7月26日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成2年審判第13144号事件として審理したうえ、平成5年9月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月1日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

撮影レンズを合焦位置に移動させるモータ及び該モータの駆動用回路を有するレンズ駆動手段と、

前記撮影レンズの焦点を検出する焦点検出手段と、

前記焦点検出手段に応動し、前記撮影レンズが前記合焦位置の近傍の所定範囲内に位置するか否か判定する判定手段と、

前記判定手段により前記撮影レンズが前記所定範囲外に位置すると判定された時には、高速度で前記撮影レンズを駆動する為に前記駆動用回路への給電を連続的に行う駆動信号を発生し、また、前記判定手段により前記撮影レンズが前記所定範囲内に位置し、かつ、非合焦状態であると判定された時には、低速度で前記撮影レンズを駆動する為に前記駆動用回路に対して給電を行う駆動信号と前記モータの両端を短絡させて該給電時の前記モータの駆動を減速する制動信号とを交互に発生し、さらに、前記判定手段により前記撮影レンズが前記所定範囲内に位置し、かつ、合焦状態であると判定された時には、前記撮影レンズを停止する為に前記モータの両端子を短絡させて前記モータの駆動を停止する停止信号を発生するレンズ駆動制御手段とを備え、

前記レンズ駆動制御手段により前記撮影レンズが前記所定範囲内にあるときに撮影レンズの移動速度を減少させることを特徴とする自動焦点調節装置。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、特開昭54-119232号公報(以下「引用例1」という。)、特開昭55-100532号公報(以下「引用例2」という。)及び特開昭56-41789号公報(以下「引用例3」という。)各記載の発明を組合せて、容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定は認める。引用例1の記載事項の認定(審決書3頁17行~4頁5行)は、引用例1記載の発明(以下「引用例発明1」という。)において、最適正位置付近では「レンズの移動速度が低下し」とある点を否認し、その余は認める。引用例2及び3の記載事項の認定(同4頁5~14行)は認める。

本願発明と引用例発明1との一致点の認定は、両者が、「撮影レンズを合焦位置に移動させるモータ及び該モータの駆動用回路を有するレンズ駆動手段と、前記撮影レンズの焦点を検出する焦点検出手段と」(同4頁17行~5頁1行)を有する点で一致することを認め、その余は否認する。

相違点(1)~(3)の認定(同6頁3~13行)は認めるが、その判断は争う。

審決は、引用例発明1を誤認して、本願発明と引用例発明1との一致点を誤認し(取消事由1)、各相違点についての判断を誤り(取消事由2~4)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(引用例発明1の誤認に基づく一致点の認定の誤り)

(1)  審決は、引用例発明1において、最適正位置付近では「レンズの移動速度が低下し」と認定しているが、誤りである。

引用例1(甲第5号証)には、「第2図に示すように、ズレ量Lが大であると、焦合用モータは連続的に駆動され、やがて断続駆動となり停止する」(同号証7頁右下欄5~8行)と記載され、この「断続駆動」は、「駆動してから停止するという繰り返し」(同7頁右下欄10~11行)であり、その第2図に図示されているとおり、ズレ量がL1より小さくなると開始され、時間t1-t2、t3-t4の間はズレ量Lが減少、すなわち、焦合用モータは駆動され、しかもこの駆動は等速駆動(同2頁左下欄2行記載の式)であり、時間t2-t3、t4-t5では焦合用モータは完全に停止している。したがって、レンズの移動は等速移動と停止の繰り返しであり、本願発明における「低速度」の移動とは異なる。

そして、引用例1の焦点検出方式はコントラスト検出方式であるため、合焦位置検出はレンズ停止中に行われなければならないから、レンズ移動中、すなわち合焦位置とのズレ量が変化している間には、合焦位置の検出は行われない。

このように、引用例発明1の自動焦合装置においては、合焦位置とのズレ量が大の場合、比較的長時間連続駆動し、ある時間経過後、断続駆動に入り、この停止期間中に合焦位置を検出し、その後、等速駆動するということを繰り返すもので、レンズが合焦位置にあれば、その次の駆動を行わないものである。引用例発明1における論理回路28の出力(駆動信号)が低電位に変わるのは、合焦判定のために撮影レンズの駆動を停止するとき毎であり、これは、合焦時にのみ出される本願発明の停止信号とは異なるものである。

してみると、引用例発明1の焦点検出装置では、所定値L1を設けた意味は、合焦を確認するためのレンズの停止位置を定めたにすぎず、換言すれば、引用例発明1では、連続駆動でほぼ合焦とみなされる位置にレンズを駆動し、断続駆動に移行してレンズを停止させ、その間に合焦確認をするという技術である。したがって、引用例発明1においては、本願発明で必要とする所定範囲という概念を必要としない。

(2)  これに対し、本願発明においては、(a)撮影レンズが合焦位置近傍の所定範囲外にあるときには、撮影レンズを高速度で駆動しつつ合焦状態を判定し(高速駆動)、(b)撮影レンズが合焦位置近傍の所定範囲内でかつ非合焦状態にあるときには、モータへの給電と給電を行わずモータの両端子を短絡させて給電時のモータ駆動を減速させることを繰り返す減速駆動にし、撮影レンズを低速度で移動させつつ合焦状態を判定し(減速駆動)、(c)撮影レンズが合焦状態と判定されたときには、停止信号を出して、この停止信号に基づきモータの両端子を短絡させて、撮影レンズを急停止する(合焦駆動)ものである。

本願発明では、(a)の高速駆動に続いて、(b)の減速駆動の採用により、「早く合焦させたい」と「精度良く合焦させたい」という2つの要件を最大限満足させるものであり、判定手段が合焦状態を判定したときの応答性に優れ、かつ、(c)の合焦判定時には、停止信号を出して、ショートブレーキを掛けて撮影レンズを急停止するため、撮影レンズは合焦位置に精度良く停止することができる。

本願発明において、上記(b)の撮影レンズを移動しながら合焦状態を判定することは、レンズ駆動手段が、本願発明の要旨に示すとおり、「前記判定手段により前記撮影レンズが前記所定範囲内に位置し、かつ、合焦状態であると判定された時には、前記撮影レンズを停止する為に前記モータの両端子を短絡させて前記モータの駆動を停止する停止信号を発生する」との構成からも明らかである。けだし、引用例発明1のように、撮影レンズを停止させて合焦状態を判定するのであれば、このような停止信号は不要であり、本願発明の要旨に示す構成は、撮影レンズを移動しながら合焦状態を検出する前提の上になされており、撮影レンズを停止させて合焦状態を判定する構成は、その特許請求の範囲の記載の文理上できない。

この(a)、(b)、(c)の構成は、引用例発明1に存在しない。

(3)  にもかかわらず、審決は、本願発明と引用例発明1とが、「前記焦点検出手段に応動し、前記撮影レンズが前記合焦位置の近傍に位置するか否か判定する判定手段と、前記判定手段により前記撮影レンズが前記近傍でない位置に位置すると判定された時には、高速度で前記撮影レンズを駆動するために前記駆動用回路への給電を連続的に行う駆動信号を発生し、また、前記判定手段により前記撮影レンズが前記近傍に位置し、かつ、非合焦状態であると判定された時には、低速度で前記撮影レンズを駆動するために前記駆動用回路に対して給電を行う駆動信号と、給電を行わずモータを低速駆動する信号を交互に発生させ、さらに、前記判定手段により前記撮影レンズが前記近傍に位置し、かつ合焦状態であると判定された時には、前記撮影レンズを停止するために前記モータの駆動を停止するレンズ駆動制御手段とを備え、前記レンズ駆動制御手段により前記撮影レンズが前記近傍にあるときに撮影レンズの移動速度を減少させることを特徴とする自動焦点調節装置」の点で同一である(審決書2頁9行~6頁3行)と誤って認定した。

2  取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)

審決は、相違点(1)の点は、「引例2の所望の焦点圏及び隣接焦点圏と本願の所定範囲内が同じであるので、この点は同引例に記載されている。」(審決書6頁15~17行)と認定しているが、誤りである。

引用例2記載の自動焦点調節装置における所望の焦点圏及び隣接焦点圏は、被写体距離そのものを用いて決まるものであり、レンズを停止して合焦範囲に止めるために、レンズの慣性による移動量を見込んだレンズ停止ゾーンであるのに対し、本願発明の所定範囲は、被写体距離とは何ら関係なく合焦位置に対する撮影レンズの位置(繰り出し位置)のみによって決まる領域であって、減速駆動の範囲を定めるものであるから、両者は全く異なるものである。被写体距離と撮影レンズの(繰出し)位置とは、一対一で対応するものではなく、そのどちらで表現しても同じことになるとはいえない。

また、引用例発明1の焦点検出装置は、本願発明での所定範囲という概念を必要としていない。

したがって、引用例発明1に引用例2記載の技術を組み合わせる合理的理由はなく、審決の相違点(1)についての判断は誤りである。

3  取消事由3(相違点(2)についての判断の誤り)

審決は、相違点(2)について、「引例1のものが合焦点近傍でモータを低速にしている以上、これを減速するのは程度の差に過ぎず、また合焦位置で、停止信号を出して積極的に制動することも当然の設計事項に過ぎない。」(審決書6頁17行~7頁1行)と判断した。

しかしながら、前記1のとおり、引用例発明1においては、合焦点近傍で断続駆動が行われるのであって、低速駆動ではなく、また、合焦を判断した時点では、停止信号を出すこともなく、積極的に制動することもない。これに対して、本願発明においては、撮影レンズが近傍に位置するが非合焦状態の場合、駆動用回路に給電を行う駆動信号とモータの両端子を短絡させて給電時のモータの駆動を減速する制動信号とを交互に発生させることにより低速度で撮影レンズを駆動し、合焦状態では、積極的に停止信号を出すのであって、これを当然の設計事項とはいえず、審決の上記判断は誤りである。

したがって、審決の相違点(2)についての判断は誤りである。

4  取消事由4(相違点(3)についての判断の誤り)

審決は、相違点(3)につき、「(3)の点は引例3に示されている。」(審決書7頁1~2行)と認定した。

しかしながら、引用例3は、本願発明の自動焦点調節装置とは全く技術分野を異にするオートブラインド装置に適用するに好適な直流モータ寸動方式に関するものであり、また、同方式は、回転パルス終期毎にアマチュアショートをかけて惰走を防止し、すなわちモータを停止させ、モータの回転停止位置を確実にするものであって、本願発明のように、モータへの給電とモータの両端子の短絡を交互に行ってモータを制動(減速)するものではなく、さらに、ある期間にわたるモータ駆動を高速度にしたり、低速度にするものではない。

したがって、審決の上記認定は誤りである。

さらに、審決は、「引例3に示されたモータは一方向にのみ回転するものであるが、モータの両端子を短絡してブレーキを掛けることは、モータが正逆転するものか否かとは無関係に用いられている」(同7頁2~6行)と認定したが、このような引用例3に示された一方向にのみ回転するモータを引用例発明1に適用しても、本願発明の相違点(3)に係る構成にはならない。

以上のとおり、審決の相違点(3)についての判断は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  審決は、引用例1の記載の認定において、「移動速度の低下」なる用語を、高速作動から相対的に低速でブレーキの掛かりやすい状態に移行したことのみを表現するものとして使用し、本願発明と引用例発明1との一致点として、「撮影レンズの移動速度を減少させる」点を認定しており、低速化するための駆動制御の相違は相違点(2)及び(3)として認定している。

引用例1(甲第5号証)の記載(2頁右上欄12行~左下欄6行、3頁左下欄12~19行、3頁右上欄7~9行)から明らかなように、引用例発明1においては、断続駆動により、駆動時間が短く抑えられることによって、回転が高速に達する前に給電が絶たれるため、最適正付近では平均駆動速度が半分以下になり、さらに、最適正に近づくほど緩やかになり、合焦位置で停止する、すなわち、合焦位置近傍では、必要な位置で停止できる程度に減速されるものである。

引用例発明1の断続駆動は、引用例1(甲第5号証)に「論理積回路27の断続的な出力Fがそのまま最終的な駆動指示信号となり」(同号証3頁右上欄7~8行)と記載されているとおり、出力Fの発生が駆動指示信号となって給電され、その断状態では給電しないのであるから、この断状態が給電を行わずモータを低速駆動する信号に相当する。したがって、引用例1には、減速駆動にするために、給電を行う駆動信号と給電を行わずモータを低速駆動する信号を交互に発生することが、モータの両端子を短絡させてモータの駆動を減速する制動信号の点を除き、開示されている。

以上によれば、引用例1には、「撮影レンズを移動しながら合焦状態を判定して」との点を除く原告主張の(b)の点は、開示されている。

そして、本願発明においては、レンズ移動中に合焦位置を判定するものに限定されず、引用例発明1のようにレンズが停止した時点で判定するものも含まれているのであるから、この点は、引用例発明1と相違しない。

(2)  本願発明において、合焦状態を判定したときには、モータの両端子を短絡させてモータの駆動を停止する停止信号を出して、撮影レンズの駆動を急停止する点(原告主張の(c))については、引用例発明1において、論理積回路27の出力F(駆動信号)が合焦位置では低電位となり、停止信号となることは明らかであるから、引用例1には、合焦状態であると判定されたときには、モータの駆動を停止する停止信号を発生することが開示されている。したがって、引用例1には、モータの両端子を短絡させる停止信号の点を除く上記(c)の点は開示されている。

そして、モータの両端子を短絡させる制動信号及び停止信号の点については、審決は、相違点(3)として適正に認定している。

以上のとおり、審決には、引用例発明1の誤認も一致点の誤認もない。

2  取消事由2について

被写体距離と撮影レンズの(繰出し)位置は、レンズの焦点距離によって異なるものの、特定のレンズについては被写体位置と合焦点とが必ず一対一で対応するものであるから、そのどちらで表現しても同じことになる。そして、レンズの作動について、焦点付近での速度調節を行なうのに、被写体位置の前後に所望の焦点圏や隣接焦点圏を置くのと、レンズの焦点位置の周囲に所定範囲を置くのとは、技術的には全く同等である。要は、いずれも、合焦点の近傍に、レンズの移動を減速するしかるべき領域を設けている点では、技術的に同じである。

したがって、引用例2記載の自動焦点調節装置における所望の焦点圏や隣接焦点圏も、本願発明における所定範囲も異なるものではなく、審決の相違点(1)についての判断に誤りはない。

3  取消事由3について

審決の「引例1のものが合焦点近傍でモータを低速にしている」との認定に誤りがないことは、前記1のとおりである。

引用例発明1では、合焦を判断した時点では、積極的に制動することのないことは認めるが、この範囲で減速することが周知であることは、引用例1及び2から明らかであり、また、モータに給電とモータ両端子の短絡ということを行って、モータの速度を低下させ、制御させやすくするというモータの制動装置が引用例3にみられるとおり周知であるから、周知手段を周知の目的で写真機に組み込み、上記のように作動させるようにすることは当業者にとって容易である。

したがって、審決の相違点(2)についての判断に誤りはない。

4  取消事由4について

写真機における技術は、その分野が写真機に限定されるものではなく、機械設計とか、材料工学とか多数の基礎的技術の分野を含むものであり、引用例3記載の技術は、使用目的は異なるものの、モータ制御の技術としては、本願発明と共通の技術分野に属するものである。

引用例3(甲第7号証)には、モータの両端子の短絡させるブレーキが記載されている(同号証4頁右下欄7~11行)。しかも、このブレーキは給電と交互に一定の周期で繰り返して掛かっていて、回転速度が大きくならないように制御している(第4図f、g)ものであるから、本願発明と同じ制御方法が開示されていることは明らかである。

引用例発明1において、給電を止めた後、レンズ鏡筒を急速に止めるのに制動を掛けることを否定するものではないから、引用例発明1に引用例3記載の制動方法を適用することには十分理由がある。

したがって、審決の相違点(3)についての判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(引用例発明1の誤認に基づく一致点の認定の誤り)について

本願発明と引用例発明1とが「撮影レンズを合焦位置に移動させるモータ及び該モータの駆動用回路を有するレンズ駆動手段と、前記撮影レンズの焦点を検出する焦点検出手段と」(審決書4頁17行~5頁1行)を備える点で一致すること、審決の相違点(1)~(3)の認定(同6頁3~13行)は当事者間に争いはない。

(1)  まず、引用例発明1の構成についてみると、引用例1(甲第5号証)には、「本発明は・・・速やかな安定した高精度の自動焦合装置を実現するための制御回路を提供する。本発明の制御回路は撮影レンズに依る被写体の焦合位置と像面とのズレ量を検知する回路を備えており、ズレ量が大の場合は焦合用モータの能力を最大限活用できるように連続的に駆動して撮影レンズ位置を適正な位置まで近づけて行き、ズレ量がほぼ焦点深度付近ほどに小になつた場合はズレ量にほぼ比例した短時間ずつ断続的に駆動して徐々に最も適正な位置に近づけて行くように構成されている。」(同号証5頁左下欄15行~右下欄6行)、「5は焦合位置検出器としてのCdSであり、・・・該CdS5の光電面上の撮影レンズ3によつて作られた被写体像が最も鮮鋭になる位置において、CdS5の出力は極値をとる。」(同6頁左上欄12~18行)、「第2図は第1図に示したズレ量Lと時刻tとの関係を図示したもので、ズレ量Lが大の時、焦合用モータが連続駆動される状態からやがて断続駆動となり停止するまでを示している。・・・焦合状態に近づくとレンズの平均移動速度は弱まりながら焦合位置で停止する。」(同6頁左下欄2~8行)、「本発明制御回路は上記の動作を行うから、強力で高速な焦合用モータを採用し、その全能力を使用して急速に焦合状態に近づけても、最適正焦合状態付近では平均速度が半分以下となり、更に最適正に近づくほど緩やかになるという動作を行う」(同7頁右下欄20行~8頁左上欄4行)と記載されており、この記載によれば、引用例1には、CdSの出力が最大になった点を焦合位置として、被写体の焦合位置と像面とのズレ量を検出する焦合位置検出手段を備え、撮影レンズを焦合位置に移動させるに当たって、ズレ量が大のとき焦合用モータを連続的に駆動して撮影レンズ位置を適性な位置まで近づけて行き、ズレ量がほぼ焦点深度付近ほどに小になるとモータを断続駆動に転じて、撮影レンズの平均移動速度を低下させ、焦合位置と判定されたときにはモータの駆動を停止して撮影レンズの移動を停止するという構成によって、速やかな安定した高精度のカメラの自動焦合装置用制御回路を得ることを目的とした発明(引用例発明1)が記載されていると認められる。

このように、引用例発明1においては、ズレ量が大であれば、モータを連続駆動し、ズレ量がほぼ焦点深度付近ほどに小になると、モータを断続駆動に転じて、撮影レンズの平均移動速度を低下させるのであるから、審決が、引用例1の記載事項として、「最適正位置付近ではモータが間欠的に回転することによって、レンズの移動速度が低下し」(審決書4頁2~4行)と認定したことに、原告主張の誤りはない。

そして、引用例発明1のモータ駆動用回路に対する給電について、引用例1(甲第5号証)には、ズレ量が大の場合につき、「論理積回路27の出力Fは高電位を保ち論理和回路28の出力Gとなつて現われる。論理回路28の出力は焦合用モータ31の最終的な駆動指示信号であり、これが高電位のとき、方向判別回路16の出力状態によつて定められる方向に該モータ31を回転させる。」(同号証7頁右上欄2~8行)、「論理和回路28の出力Gは・・・常に高電位となり、連続駆動が行なわれる。これは第2図におけるズレ量LがL1以上の場合に相当する。連続駆動から断続駆動に転ずるズレ量L1の大きさは、可変抵抗25を調節して基準電圧V0を変化させるか、又は抵抗20、22の値を調節することにより設定される。」(同7頁左下欄6~13行)と記載され、ズレ量が小の場合につき、「論理積回路27の断続的な出力Fがそのまま最終的な駆動指示信号となり、駆動時間はズレ量Lにほぼ比例することになる。」(同号証7頁右上欄14~17行)と記載されている。

この記載から明らかなように、ズレ量が大である場合に連続駆動するための給電を行う信号は、論理和回路28の出力Gとして現れる高電位の出力であり、ズレ量が小である場合に断続駆動するための給電を行う信号は、論理積回路27の断続的な出力Fであり、高電位の出力Fが出力されるとモータ駆動用の給電が行われ、低電位の出力Fが出力されると給電が行われず、これが交互に繰り返される結果、撮影レンズの平均移動速度の低下をもたらすものであるから、この場合の低電位の出力Fをもって、モータの駆動を減速する信号に該当するということができる。

そして、レンズが焦合位置で停止するのは、低電位の出力Fが続き、モータへの給電が絶たれている場合であるから、この場合の低電位の出力Fをもって、モータの駆動を停止する停止信号に該当するということができる。

(2)  一方、本願発明は、本願明細書(甲第4号証)に記載されているとおり、焦点検出信号に応じてモータを回転しこれにより撮影レンズを合焦位置に駆動する自動焦点調節装置において、撮影レンズが合焦位置の近傍でない位置にあるときは高速駆動して合焦位置へ近づけ、「撮影レンズが合焦位置近傍に位置する時は、合焦位置で確実に撮影レンズを停止させる為に・・・撮影レンズ駆動用モータを、合焦位置の近傍において充分低送化できる自動焦点調節装置を提供する」(同号証2欄18行~3欄2行)ことを目的とするもので、そのモータ駆動用回路に対する給電について、本願明細書には、出力端子A、B、Cの出力の相互関係をまとめた表(同号証7欄)とともに、「入力端子A、B、Cは第3図の出力端子A、B、Cとそれぞれつながつている。前ピンで相関外であるときには、入力端子AがLowに落ち、入力端子B、CはHighであるので、トランジスタ35、36、40がONになり、モーターには左から右へ電流が流れ、撮影レンズが合焦する方向に連続的に駆動される。」(同7欄16~22行)、「このまゝ前ピンで相関内、すなわち合焦位置の近傍所定の範囲内となると、入力端子Aはパルス出力となるため、入力端子Cもパルス出力となり、入力端子Cのパルス出力のうち、Lowの区間では・・・トランジスタ39、40がONとなり、モーター41はトランジスタ39、40を介して短絡され、逆起電力によりブレーキがかゝる。従つて、パルス駆動の最中は、モーターは通電と制動を繰り返しながら駆動され、十分にスピードを落としてレンズを合焦点に近づける。」(同7欄22~33行)、「合焦したとき、入力端子A、BはHighになり、トランジスタ35、36、37、38はOFFになる。入力端子CはLowになり・・・トランジスタ39、40がONとなり、モーター41はトランジスタ39、40を介して短絡され、逆起電力により、ブレーキがかゝり急停止する。」(同7欄34~41行)と記載されている。

この記載と上記の表とをみれば、前ピンの場合、撮影レンズが合焦位置の近傍の所定範囲外にある場合に連続駆動するための給電を行う駆動信号は、入力端子AがLow、同B、CがHighの信号であり、上記所定範囲内に位置するが非合焦の場合には、入力端子A、Cがパルス出力、同BがHighであり、同Aのパルス出力がLow、同Cのパルス出力がHighの区間は、モータに給電を行い、同Aのパルス出力がHigh、同Cのパルス出力がLowの区間は、モータに給電を行わず、かつ、モータの両端子を短絡させて、逆起電力によりブレーキを掛け、これが交互に繰り返される結果、撮影レンズが低速度で駆動されることが認められる。

そして、レンズが合焦状態である場合には、同Aの出力をHigh、同Bの出力をHigh、同Cの出力をLowとして、モータに給電を行わず、かつ、モータの両端子を短絡させて、逆起電力によりブレーキを掛け、モータの駆動を停止するものであると認められる。

また、後ピンの場合には、モータに右から左へ電流が流れるようにする以外は、上記と基本的に同じであること(同7欄42行~8欄10行)が認められる。

(3)  以上の事実によれば、引用例発明1と本願発明とは、ともに、速やかな安定した高精度のカメラの自動焦合装置用制御回路を得ることを目的とし、撮影レンズが合焦位置の近傍でない位置にあると判定されたときには、高速度で撮影レンズを駆動するために、駆動回路への給電を連続的に行う駆動信号を発生し、撮影レンズが合焦位置の近傍に位置し、かつ、非合焦状態であると判定されたときには、モータの駆動用回路に対して、給電を行う駆動信号と給電を行わない信号を交互に発生させ、これにより撮影レンズを低速度で駆動するものである点で一致し、その差異は、モータを減速させるための信号が、引用例発明1では、給電を行わない信号だけであるのに対し、本願発明では、これに加えて、モータの両端子を短絡させる信号をも発生させ、これにより逆起電力によりブレーキを掛けるものであり、これを制動信号と呼んでいる点にあるということができる。また、合焦状態と判定された場合には、両者ともに、撮影レンズを停止するためにモータの駆動を停止する信号を発生させる点で一致するが、このモータの駆動を停止する信号が、引用例発明1では、給電を行わない信号だけであるのに対し、本願発明では、これに加えて、モータの両端子を短絡させる信号をも発生させ、これにより逆起電力によりブレーキを掛けるものであり、その実質は、前示制動信号と同じであり、これを停止信号と呼んでいる点で相違するということができる。

そうすると、審決が、両者は、「前記判定手段により前記撮影レンズが前記近傍でない位置に位置すると判定された時には、高速度で前記撮影レンズを駆動するために前記駆動回路への給電を連続的に行う駆動信号を発生し、また、前記判定手段により前記撮影レンズが前記近傍に位置し、かつ、非合焦状態であると判定された時には、低速度で前記撮影レンズを駆動するために前記駆動用回路に対して給電を行う駆動信号と、給電を行わずモータを低速駆動する信号を交互に発生させ、さらに、前記判定手段により前記撮影レンズが前記近傍に位置し、かつ合焦状態であると判定された時には、前記撮影レンズを停止するために前記モータの駆動を停止するレンズ駆動制御手段を備え、前記レンズ駆動制御手段により前記撮影レンズが前記近傍にあるときに撮影レンズの移動速度を減少させることを特徴とする自動焦点調節装置。」の点で一致するとし(審決書5頁5行~6頁3行)、相違点として、「(1)判定手段が撮影レンズが合焦位置の近傍にあるかどうかを判定するための所定範囲を設けたこと、(2)モータを低速駆動する際に、モータに給電しない周期においてモータ制動信号を発生させて、モータを減速させること、及び(3)モータの制動(減速)は、モータへの給電とモータの両端子を短絡させ(ブレーキを掛け)ることを交互に行うものであり、また撮影レンズを停止するときには、モータの両端子を短絡させ停止させるようにした各点」(同6頁3~13行)を挙げていることは正当であり、原告主張の引用例発明1の誤認に基づく一致点の誤認はなく、ひいては相違点の看過もないことが明らかである。

(4)  原告は、本願発明は撮影レンズを移動しながら合焦状態を判定するという構成を備えているのに対し、引用例発明1において撮影レンズが停止した時点で合焦位置を判定する点で相違すると主張し、本願発明において、撮影レンズを移動しながら合焦状態を判定することは、レンズ駆動手段が「判定手段により撮影レンズが所定範囲内に位置し、かつ、合焦状態であると判定された時には、撮影レンズを停止する為にモータの両端子を短絡させてモータの駆動を停止する停止信号を発生する」ことからも明らかであると主張する。

しかし、本願発明において、低速駆動する場合、引用例発明1のように、単に給電を行う信号と給電を行わない信号を交互に発生させるものとは異なり、給電を行う駆動信号と給電を行わずモータの両端子を短絡させて逆起電力によりブレーキを掛ける制動信号とを交互に発生させるものであることは前示のとおりであるから、引用例発明1の場合よりも、撮影レンズが急停止されやすいものであるうえ、この両信号を交互に発生させる時間的間隔(パルス幅)については、本願発明の要旨に何ら規定するところがないから、その時間的間隔(パルス幅)が大きく、したがって、撮影レンズの移動が急停止され、また、駆動されることが交互に繰り返されるものを除外していないものといわなければならない。

そして、焦点検出手段において、本願発明と引用例発明1とが一致することは、原告も認めるところである。

そうすると、本願発明は、撮影レンズを移動しながら合焦状態を判定するものに限定して解することはできず、原告の上記主張は失当である。

取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)について本願発明の要旨に示された「撮影レンズが前記合焦位置の近傍の所定範囲内に位置するか否か判定する判定手段」、「判定手段により前記撮影レンズが前記所定範囲外に位置すると判定された時には、高速度で前記撮影レンズを駆動する・・・また、・・・撮影レンズが前記所定範囲内に位置し、かつ、非合焦状態であると判定された時には、低速度で前記撮影レンズを駆動する・・・さらに、撮影レンズが前記所定範囲内に位置し、かつ、合焦状態であると判定された時には、前記撮影レンズを停止する」との構成によれば、本願発明にいう「所定範囲」とは、合焦位置の近傍に位置し、撮影レンズを低速度で駆動若しくは停止する範囲として、予め定めておく範囲を意味することが明らかである。そして、撮影レンズは、その範囲外に位置する場合には高速度で駆動され、この範囲内に入ると低速度で駆動されるのであるから、所定範囲の限界が、高速駆動と低速駆動を分かつ境界をなしていることも明らかである。本願明細書(図面を含む。甲第4号証)全体を検討しても、それ以上の意義を有するものとは認められない。

そうすると、引用例発明1においても、撮影レンズが合焦位置の近傍に位置するかどうかを判定し、撮影レンズを高速駆動する状態から低速駆動する状態へ移行させていることは前示のとおりであるから、この低速駆動する範囲は、「所定範囲」という用語は用いられてはいないものの、本願発明の所定範囲と、その技術的意義を異にするものではないというべきである。原告の引用例発明1には本願発明の所定範囲の概念をいれる余地はないとの主張は、理由がない。

そして、引用例2に、審決認定のとおり、「シネカメラなどの焦点調節装置において、レンズの作動位置を複数の焦点圏に分割し、移動するレンズが所望の焦点圏に隣接する焦点圏にはいると、レンズの駆動力は所定時間停止させられ、脈動駆動力が供給されるようになるもの」(審決書4頁5~10行)が記載されていることは、当事者間に争いがなく、この記載事項と引用例2(甲第6号証)の「隣接アドレスセンサ96が出力に隣接アドレス信号98を発生しない場合、・・・駆動モータ78・・・が所望焦点圏に向つて順方向に駆動される」(同号証5’頁右下欄13~18行)、「隣接アドレスセンサ96が隣接焦点圏を感知して出力に隣接アドレス信号98を発生すると、・・・順方向モータ制御器104への駆動順方向信号を終止させ、且つモータ78による駆動力を終止するが、慣性力によつてレンズマウント18は所望焦点圏に向つて移動し続ける。隣接アドレス信号98が・・・生じると・・・モータ78は再びレンズマウント18を所望焦点圏に向つて駆動する。」(同6頁左上欄6~20行)、「一度所望焦点圏に到達すると焦点順方向信号92が禁止され、・・・駆動モータ78から供給される脈動モータ力を終止する。」(同頁右上欄9~12行)、「焦点可調整レンズの隣接焦点圏への到達を感知し、前記隣接焦点圏に到達した時にレンズ駆動装置を消勢し前記レンズが所望焦点圏に到達するまで前記駆動装置を連続的に脈動させることにより、焦点制御装置は焦点可調整レンズをあらゆる焦点圏内のほぼ同じ関係位置へ比較的高速で繰返し焦点合せすることができる。」(同頁右下欄19行~7頁5行)との記載によれば、引用例2記載の隣接焦点圏とは、合焦位置の近傍に位置し、撮影レンズがその範囲外に位置すると判定されたときには、高速度で撮影レンズを駆動し、撮影レンズがその範囲内に位置し、かつ、非合焦状態であると判定されたときには、低速度で前記撮影レンズを駆動する範囲であると解され、これが本願発明の「所定範囲」に相当するものであることは明らかである。

原告は、引用例2記載の所望の焦点圏及び隣接焦点圏は、被写体距離そのものを用いて決まるものであるのに対し、本願発明の「所定範囲」は、被写体距離とは何ら関係なく合焦位置に対する撮影レンズの位置のみによって決まる領域であるから、両者は全く異なり、引用例発明1に引用例2記載の技術を組み合わせる合理的理由はないと主張する。

しかしながら、いずれも、合焦位置の近傍において、レンズの移動を低速度で行う範囲をを設けている点では、技術的に同じであり、しかも、本願明細書(甲第4号証)の「本発明の焦点検出手段や相関検出手段の構成は、実施例に限ることなく、前者の手段は合焦、前ピン、後ピンを検出できれば、また後者の手段は合焦位置の近傍範囲内か外かを検出できれば、それぞれ如何なる構成であつてもよい。」(同号証11欄38行~12欄19行)との記載から明らかなように、本願発明の「所定範囲」の検出方法は、本願発明の要旨に示されているとおり、原告主張の方法に限定されるものではないから、原告の上記主張は、本願発明の要旨に基づかない主張として、採用に値しない。

そうすると、相違点(1)に係る本願発明の構成は引用例2に記載されているのであるから、これを組み合わせることは当業者にとって容易であると認められ、審決のこれと同旨の判断に誤りはない。

3  取消事由3(相違点(2)についての判断の誤り)及び同4(相違点(3)についての判断の誤り)について

引用例発明1と本願発明とが、撮影レンズが合焦位置の近傍に位置し、かつ、非合焦状態であると判定されたときには、モータの駆動用回路に対して、給電を行う駆動信号と給電を行わない信号を交互に発生させ、これにより撮影レンズを低速度で駆動するものである点で一致し、その差異は、モータを減速させるための信号が、引用例発明1では、給電を行わない信号だけであるのに対し、本願発明では、これに加えて、モータの両端子を短絡させる信号をも発生させ、これにより逆起電力によりブレーキを掛けるものであって、これを制動信号と呼んでいる点にあり、また、合焦状態と判定された場合には、両者ともに、撮影レンズを停止するためにモータの駆動を停止する信号を発生させる点で一致するが、このモータの駆動を停止する信号が、引用例発明1では、給電を行わない信号だけであるのに対し、本願発明では、これに加えて、モータの両端子を短絡させる信号をも発生させ、これにより逆起電力によりブレーキを掛けるものであり、これを停止信号と呼んでいる点で相違することは、前示のとおりである。

この相違点につき、引用例3に、審決認定のとおり、「直流モータを駆動してその惰走を阻止するために、モータに駆動電力を送るのと、モータを短絡してブレーキを掛けるのを交互に行うものが示されている」(審決書4頁11~14行)ことは、当事者間に争いはない。これを、引用例3(甲第7号証)の記載に徴すれば、その実施例を説明した「・・・パルス幅に対応した時間だけ直流モータ12を駆動する。したがつて、パルス幅調整器10によつてパルス幅を調整すれば、直流モータ12の回転速度を変化させることができる。また、直流モータ12に電源が印加されていないときには、アマチュアショート回路11がはたらいて直流モータ12の惰走を最小限度に防止する。このため、直流モータ12の回転停止位置を正確に規制することができ・・・る」(同号証2頁右下欄18行~3頁左上欄8行)との記載から明らかなとおり、パルス出力によりモータに対して給電を行うことと給電を行わないことを交互に繰り返し、給電を行わないときにモータを短絡させて、モータの回転速度を制御し、また、モータを短絡させて、モータの駆動を停止する手段が開示されていることが認められる。

そして、「この発明は、直流モータを低速回転制御するのに好適な直流モータ寸動方式に係り、とくに直流モータの回転制御をパルス幅の調整によりおこなうと共に、各パルス終期毎に直流モータにアマチュアショートをかけてその惰走を防止しうるようにした直流モータ寸動方式に関する。直流モータを駆動源とする機械・装置は枚挙にいとまがないほどであり、また回転速度の制御が必要なものも数多い。さらに、所望の回転停止位置でなるべく正確に停止させたい機能上の必要性も数多く存在する。上記した機械・装置の一例としては、オートブラインド装置がある。」(同1頁左下欄13行~右下欄5行)との記載から明らかなように、引用例3に記載された直流モータ寸動方式は、汎用性のある直流モータの低速回転制御及び停止に関する技術であって、オートブラインド装置に限定されるものではないことが明らかである。

そうすると、この技術を引用例発明1に適用し、本願発明の、「低速度で前記撮影レンズを駆動する為に前記駆動用回路に対して給電を行う駆動信号と前記モータの両端を短絡させて該給電時の前記モータの駆動を減速する制動信号とを交互に発生し、さらに、・・・前記撮影レンズを停止する為に前記モータの両端子を短絡させて前記モータの駆動を停止する停止信号を発生する」構成とすることは、当業者にとって容易に想到できることといわなければならない。

原告は、引用例3に示された一方向にのみ回転するモータを引用例発明1に適用しても、本願発明の相違点(3)に係る構成にはならないと主張するが、モータの両端子を短絡してブレーキを掛ける技術はモータが正逆転するものか一方向にのみ回転するものかとは無関係に用いることができるものであることは、あえて説明を要しない技術常識というべきであり、原告の上記主張は失当である。

以上のとおり、審決の相違点(2)、(3)についての判断に誤りはない。

取消事由3、4は理由がない。

4  以上によれば、審決の「本願発明は、当該技術分野の通常の知識を有する者が、これらの引例記載のものを組合せて、容易に発明できたものと認められ」(審決書7頁7~9行)との判断に誤りはなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成2年審判第13144号

審決

東京都千代田区丸の内3丁目2番3号

請求人 株式会社ニコン

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル602号室

代理人弁理士 岡部正夫

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル602号室

代理人弁理士 井上義雄

昭和56年特許願第117089号「自動焦点調節装置」拒絶査定に対する審判事件(平成4年8月10日出願公告、特公平4-49089)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願は昭和56年7月28日の出願であって、その発明の要旨は、その出願公告時の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の記載通りと認められ、その第1項は次の通りである。「撮影レンズを合焦位置に移動させるモータ及び該モータの駆動用回路を有するレンズ駆動手段と、

前記撮影レンズの焦点を検出する焦点検出手段と、

前記焦点検出手段に応動し、前記撮影レンズが前記合焦位置の近傍の所定範囲内に位置するか否か判定する判定手段と、

前記判定手段により前記撮影レンズが前記所定範囲外に位置すると判定された時には、高速度で前記撮影レンズを駆動する為に前記駆動用回路への給電を連続的に行う駆動信号を発生し、また、前記判定手段により前記撮影レンズが前記所定範囲内に位置し、かつ、非合焦状態であると判定された時には、低速度で前記撮影レンズを駆動する為に前記駆動用回路に対して給電を行う駆動信号と前記モータの両端を短絡させて該給電時の前記モータの駆動を減速する制動信号とを交互に発生し、さらに、前記判定手段により前記撮影レンズが前記所定範囲内に位置し、かつ、合焦状態であると判定された時には、前記撮影レンズを停止する為に前記モータの両端子を短絡させて前記モータの駆動を停止する停止信号を発生するレンズ駆動制御手段とを備え、

前記レンズ駆動制御手段により前記撮影レンズが前記所定範囲内にあるときに撮影レンズの移動速度を減少させることを特徴とする自動焦点調節装置。」

これに対して、特許異議申立人竹原煕は特開昭54-119232号、同55-100532号、及び同56-41789号各公報の各刊行物を証拠として提出した(以下引例1-3という)。

引例1にはカメラの自動焦点調節装置において、CdSの露光量感知装置からの出力が最大になった点を合焦位置として、レンズを合焦位置に移動させるに当って、レンズが合焦位置から大きくずれている点ではレンズを移動するモータが連続的に回転し、最適正位置付近ではモータが間欠的に回転することによって、レンズの移動速度が低下し、それによって高速かつ正確に合焦出来るものが記載されており、引例2にはシネカメラなどの焦点調節装置において、レンズの作動位置を複数の焦点圏に分割し、移動するレンズが所望の焦点圏に隣接する焦点圏にはいると、レンズの駆動力は所定時間停止させられ、脈動駆動力が供給されるようになるものが記載されており、引例3には直流モータを駆動してその惰走を阻止するために、モータに駆動電力を送るのと、モータを短絡してブレーキを掛けるのを交互に行うものが示されている。

本願発明のものを引例1のものと比較すると、両者は

「 撮影レンズを合焦位置に移動させるモータ及び該モータの駆動用回路を有するレンズ駆動手段と、

前記撮影レンズの焦点を検出する焦点検出手段と、

前記焦点検出手段に応動し、前記撮影レンズが前記合焦位置の近傍に位置するか否か判定する判定手段と、

前記判定手段により前記撮影レンズが前記近傍でない位置に位置すると判定された時には、高速度で前記撮影レンズを駆動するために前記駆動回路への給電を連続的に行う駆動信号を発生し、また、前記判定手段により前記撮影レンズが前記近傍に位置し、かつ、非合焦状態であると判定された時には、低速度で前記撮影レンズを駆動するために前記駆動用回路に対して給電を行う駆動信号と、給電を行わずモータを低速駆動する信号を交互に発生させ、

さらに、前記判定手段により前記撮影レンズが前記近傍に位置し、かつ合焦状態であると判定された時には、前記撮影レンズを停止するために前記モータの駆動を停止するレンズ駆動制御手段とを備え、

前記レンズ駆動制御手段により前記撮影レンズが前記近傍にあるときに撮影レンズの移動速度を減少させることを特徴とする自動焦点調節装置。」の点で同一であり、本願発明のものは、(1)判定手段が撮影レンズが合焦位置の近傍にあるかどうかを判定するための所定範囲を設けたこと、(2)モータを低速駆動する際に、モータに給電しない周期においてモータ制動信号を発生させて、モータを減速させること、及び(3)モータの制動(減速)は、モータへの給電とモータの両端子を短絡させ(ブレーキを掛け)ることを交互に行うものであり、また撮影レンズを停止するときには、モータの両端子を短絡させ停止させるようにした各点で引例1のものと相違する。

それで、これらの相違点について検討すると、(1)の点は、引例2の所望の焦点圏及び隣接焦点圏と本願の所定範囲内が同じであるので、この点は同引例に記載されている。次に(2)の点は、引例1のものが合焦点近傍でモータを低速にしている以上、これを減速するのは程度の差に過ぎず、また合焦位置で、停止信号を出して積極的に制動することも当然の設計事項に過ぎない。(3)の点は引例3に示されている。なお引例3に示されたモータは一方向にのみ回転するものであるが、モータの両端子を短絡してブレーキを掛けることは、モータが正逆転するものか否かとは無関係に用いられているものである。

したがって本願発明は、当該技術分野の通常の知識を有する者が、これらの引例記載のものを組合わせて、容易に発明できたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることが出来ない。

よって結論の通り審決する。

平成5年9月27日

審判長 特許庁審判官 (略)

特静庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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